昨今、企業経営においてESG対応が求められる中、社会面(S)の一項目として、労働者の安全衛生対応、企業が製造・販売等した製品の安全性の配慮等の重要性もますます高まってきています。直近の国際的な動きとして、多くの企業方針の中で参照されている国際労働機関(ILO)のILO宣言の改定があげられます。ILOは2022年6月に開催した総会において、労働における基本的原則及び権利に関する ILO宣言で掲げられた「中核的な労働基準」の5番目の分野に「安全で健康的な職場環境」を追加することを決議しており、国連ビジネスと人権指導原則における企業の人権尊重責任の一環として労働安全衛生への対応が求められるようになると考えられます。
また、その一方で各国政府は国民の健康や身体の安全を守るための法令を強化する動きもみられます。本ニュースレターでは、そのような各国の動きの中、韓国における「重大災害処罰法(2022年1月27日施行)」を紹介します。
この重大災害処罰法は韓国の法務部、環境部、雇用労働部、産業通商資源部、国土交通部および公正取引委員会が共同で作成した法令で、“重大な事故を防止し、国民及び労働者の生命、身体の安全を守るため、事業所、営業所、公共施設、公共交通機関の運営や人体に有害な物質・製品の取り扱いにおいて、安全衛生措置の義務に違反して死傷者を出した事業主、管理責任者、公務員、企業に対し、刑罰等を定めること”を目的としています。
この法令の中では、「重大な事故」として、少なくとも一人が死亡しているなどの要件を含めた「重大な労働災害」および、特定の原材料や製品、公共用施設、公共交通機関の設計、製造、設置、管理などの欠陥に起因する事故により少なくとも一人が死亡しているなどの要件を含めた「重大な市民事故」が定義されています。これらの重大な事故を防止するための措置として、以下の対応を企業の経営責任者等に義務付けています。
1. 安全衛生マネジメントシステムの構築と実施(事故防止のために必要な人材や予算の確保など)
2. 事故が発生した場合、事故の再発防止策の策定と実施
3. 中央または地方行政からの改善、是正、その他の措置の命令の遵守
4. 安全衛生関連法令に基づく業務遂行に必要な管理措置
本法および施行令の中で構築すべき安全衛生マネジメントシステムの内容や要件などが定められており、企業はこれらの要求事項を十分満たしているかどうかを確認し、不足している点があれば、実質的に「重大な事故」を防止することに十分な体制や予算を確保し、また、それらが実行されているかについて定期的(半期もしくは年1回)点検することが義務付けられています。
また、本法の特徴の一つとして、当該義務の違反によって重大な事故が発生した場合には、法人だけでなく経営責任者個人に対して刑事処罰等の法的責任を問うことができるように規定していることがあげられます。そのため、ガバナンスの観点からも実効的な安全衛生への対応が求められています。
韓国に現地法人を持つ日本企業は、本法で要求される方法により、労働者がより安全かつ健康に働くことができる環境を作る必要があります。ERMでは、グローバル企業向けに現地オフィスの専門家との連携により法令対応に関する調査・監査、マネジメントシステム構築や事故防止策の策定・効果的な運用等のコンサルティング業務を提供しております。
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