欧州連合(EU)では、化学物質規制に関する重要な動きが続いています。特に、CLP規則(化学物質の分類、表示および包装に関する規則)に関して、2023年に新たな危険有害性区分が導入され、これがREACH規則にも大きな影響を与えています。また、ポイズンセンター届出(PCN)の移行期間が終了し、企業には新たな対応が求められています。今後、これらの規制が企業にどのような影響を与えるのかを探ります。

2023年4月20日、EUは、欧州委員会委任規則(EU) 2023/707により、新たな危険有害性区分をCLP規則に導入しました。これらの区分は、従来のGHS(Globally Harmonized System)には含まれていなかったものであり、今後、各国GHSの危険有害性区分にも波及することが予想されます。新たに導入された危険有害性区分は以下の通りです。

  • 内分泌かく乱性(ED)
  • 難分解性、生体蓄積性および毒性(PBT)
  • 極めて難分解性で極めて生体蓄積性が高い(vPvB)
  • 難分解性、移動性および毒性(PMT)
  • 極めて難分解性で極めて移動性が高い(vPvM)

これらの区分が新たに導入されることにより、欧州で化学物質や混合物を上市する企業は、新しい危険有害性を考慮した分類とラベルの作成が求められます。これらの分類区分は以下の通りに段階的に適用されます。なお、欧州化学品庁(ECHA)は、2024年11月に、これらの新しい区分に対応したガイダンスを発行しています。

物質:       2025年5月1日

ただし、2025年5月1日までに上市された物質への適用開始日は2026年11月1日。

混合物:    2026年5月1日

ただし、2026年5月1日までに上市された混合物への適用開始日は2028年5月1日。

また、CLP規則に基づき、危険有害性を有する混合物にはEUへの上市前に、ポイズンセンター届出(PCN)が義務付けられています。2025年1月1日からは、CLP規則附属書VIIIで定められるEU共通様式に基づくPCNの届出が求められるため、企業はこの変更にも対応する必要があります。

さらに、2024年11月20日、欧州連合は「規則(EU) 2024/2865」を公布しました。この規則は、CLP規則に基づく物質および混合物の分類、表示、包装に関する条文および附属書を大幅に修正するもので、2024年12月10日に発効しています。本修正規則の主な変更点をいくつか紹介します。

  1. 調和化された分類の対象となる条件に、規則(EU) 2023/707で定められた新たな危険有害性クラスの導入
  2. ラベルの更新期限の短縮
  3. デジタルラベルに関する規定

上述の新しい危険有害性クラスに該当すると認められた物質は、新たにEUにおける調和化分類の対象となります。分類が調和化されると、REACH規則に基づきSVHC(高懸念物質)としての指定や制限措置が提案されることが予想されます。また、ラベルの更新については、より厳しい危険有害性に該当することが判明した場合、6カ月以内にラベルを更新しなければならないという期限が設けられました。デジタルラベルに関しては、新たに使用に関する規定が新設されました。これらの変更は、欧州で活動する企業にとって大きな影響を及ぼす可能性があり、積極的に対応しなければならない重要な課題となるでしょう。

これらの変更は成形品にも影響があります。REACH規則では、認可対象物質の候補リストに収載された物質が、成形品中に年間1トン以上含まれている場合、または濃度が0.1%(w/w)を超える場合、届出が義務付けられています。また、REACH規則の制限は、成形品にも適用されます。調和化された分類の対象となる条件が増えることにより、より多くの物質が候補リストに加わる可能性があり、また、REACH規則の制限の対象に含まれることが想定されます。成形品を欧州で販売する企業は、候補リストや制限の更新に注意を払うことが求められます。

このように、EUのCLP規則改正は、特に欧州で活動している企業にとって大きな影響を与えるものです。化学物質や混合物をEU市場に投入する企業は、ラベルや安全データシート(SDS)の更新、分類の見直しが必要となります。加えて、REACH規則に基づく登録、届出、制限等に関しても、最新の規制に対応することが求められます。

また、EUは、その持続可能な化学物質戦略(CSS)において、2030年に向けた持続可能な開発目標(SDGs)における化学物質の適正管理に関するゴールとターゲットの達成に向けて国際的な提唱を強化し、特に主導的な役割を果たし、EU基準の世界的な実施を促進すること、および、国連の化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)の基準/危険有害性クラスの明確化を提案することを謳っています。前述の新たな危険有害性の追加は、あくまでもEUのCLP規則に基づくものですが、今後GHSにも展開されることが予想されます。そうなった際には、EUで活動しない企業であっても、危険有害成分類、ラベル・安全データシート(SDS)作成、登録等に関連して、将来的には多くの企業がこの危険有害性追加の影響を受けるものと推察されます。

本稿では、EUのCLP規則の改正を取り上げ、その企業への影響について解説しました。企業が適切に対応するためには、規制の変更に迅速に対応し、必要な措置を講じることが重要です。ERMでは、EUをはじめとする世界各国の化学物質規制に関する情報提供だけでなく、質疑応答やコンサルティングサービスを通じて、企業のビジネス展開を支援しています。ご興味をお持ちであれば是非ご連絡ください。

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