2026 年度よりGX-ETS が本格稼働
日本では、2023 年度より排出量取引制度(GX-ETS)が開始した。第1 フェーズである現在は、「自主
的な制度」であることが重んじられ、企業が参加するかどうかや目標設定の水準は各社の自主的な判断に委
ねられている。一方、2026 年度以降の第2 フェーズでは、排出量取引制度が「本格稼働」するとされてお
り、大企業の参加義務化や個社の削減目標の認証制度の創設について、2025 年1 月からの国会での法案提
出に向けて準備が進められている。排出削減に向けた圧力がより高まり、野心的な目標設定やその達成が期
待されると想定されるが、設備更新や技術革新のタイムラインの関係上、短期的に排出削減が困難な企業も
存在するだろう。そのような企業にとっては、適格カーボンクレジットの活用が有効になる可能性がある。

GX-ETS 適格カーボンクレジットは供給不足が見込まれる
GX-ETS の第1 フェーズにおいて、目標未達成の企業は、自社で削減できない排出分について、❶J-ク
レジット注1 、❷JCM クレジット注2 、❸その他の適格カーボンクレジット注3 の活用が可能である。第2 フ
ェーズで使用可能なクレジットの詳細は明らかにされていないが、日本のNDC 達成に寄与するJ-クレジッ
トやJCM クレジットは活用できる可能性が高いと考えられる。ここで足元の両クレジットの供給量を確認
したい。2024 年10 月末時点のJ-クレジットの累積認証量は約1,075 万トン、JCM クレジットの累積発
行量は約70 万トンである。国内排出量が2030 年NDC に向かって線形に削減されると仮定すると、2026
年度の排出量は9.2 億トン程度と見込まれる。このうち約50%が排出量取引制度の対象となり、第2 フェ
ーズで排出量の5%を上限にカーボンクレジットを利用可能注4 と仮定した場合、最大年間2,300 万トン程
度のクレジット需要が生まれる可能性がある。超過削減枠やその他の適格カーボンクレジットの活用があっ
たとしても、足元の供給量と大幅な乖離があることがわかるだろう。この乖離はどのように解消できるだろ
うか。日本国内プロジェクトに由来するJ-クレジットは、年間約100 万トン認証されており、2030 年度ま
でに累積1,500 万トンを目指す政府目標に堅実に近づいているが、飛躍的拡大は難しいと考えられる。

JCM クレジット拡大への期待が高まる
そこで、パートナー国において大規模な排出削減を実現しうるJCM に注目が集まっている。日本政府は
2030 年度までにJCM クレジットを累積1 億トン程度確保する目標を示し、パートナー国を29 か国に拡大
させ、農業系や森林系の方法論の整備にも取り組み始めている。新しい方法論に基づくプロジェクト開発は
足元で進められており、JCM クレジットの発行量は数年以内に伸びを見せる見込みである。
これまでのJCM は、日本政府の補助金によりパートナー国に日本製の再エネ・省エネ設備等を導入する
形が主流であり、企業の役割は補助金を前提とした技術提供が中心であった。しかし近年、「民間JCM」と
いう、政府補助金なしに日本企業がJCM プロジェクトを主導する形への移行が進んでいる。企業(JCM 実
施事業者)は、資金負担を求められる代わりに、貢献に応じてJCM クレジットを取得できる。取得したク
レジットは、GX-ETS や温対法の報告に利用できるほか、国内企業への売却も可能である。民間JCM の枠
組みは、一定のコンプライアンス需要(規制制度への対応のためのクレジット需要)があるクレジット制度
として海外企業からも注目されており、弊社にも、特に東南アジア諸国におけるJCM クレジット創出に関
心を寄せる海外企業からのお問合せが多く寄せられている。

JCM クレジットの調達・開発の考え方
GX-ETS の義務履行に向けて、長期かつ大量のクレジット調達を目指す場合、プロジェクト開発者とオ
フテイク契約を締結したり、開発フェーズにおける初期コストを一部負担したりすることで、自社の調達基
準を満たすクレジットを早期に確保することが有効と考えられる。上述の通り、GX-ETS が野心的な制度と
なった場合には、クレジット需要が供給量を上回り、スポット調達価格が高騰する可能性も考えられる。調
達ポートフォリオの検討においては、一般的なカントリーリスクに加え、レピュテーションリスクの回避
や、方法論固有のリスクの検証も重要である。さらに、JCM が準拠しているパリ協定6 条2 項の適格対象
活動に関する最新の議論動向注5 も考慮したうえで、調達戦略を検討すべきである。また、JCM は一般的な
ボランタリークレジットと異なり政府間交渉が必須であり、特に、制度登録前のプロジェクトに投資する際
には、クレジット発行の蓋然性を確認することが重要である。パートナー国のニーズに合ったプロジェクト
ほど、政府間交渉が円滑に進みやすいと考えられるため、事前に、パートナー国がパリ協定6 条2 項の枠組
みでクレジット化を検討している領域や、投資予定のプロジェクトがパートナー国のNDC 達成に寄与する
かどうかについて調査することが有用と考えられる。
JCM クレジットの開発を希望する企業は、JCM クレジットへの需要はボランタリークレジットとは異な
り、コンプライアンス需要が中心である点に留意すべきである。高品質でコベネフィットが多いプロジェク
トも魅力的だが、低価格で大量のクレジットを創出できるプロジェクトへの人気が高まると考えられる。日
本政府の方針としても、日本の優れた脱炭素技術を導入できるような大型案件への期待が高い。特に、再エ
ネ、グリーン物流、廃棄物インフラといった分野に注目している。再エネプロジェクト開発は、ボランタリ
ークレジット制度においては経済的追加性の観点から対象活動より除外される傾向にある注6 が、JCM 制度
は、ベースライン排出量を、BaU (現状を維持した場合の排出量) よりも低い値に設定することにより、追
加性の複雑な証明を回避するような制度設計になっており、要件を満たす再エネ案件は開発可能とされる。
再エネを含め、上記のような優れた技術をお持ちの企業はぜひJCM 化をご一考いただければと思う。
カーボンクレジットの調達・開発に携わるうえでは、上記のようなクレジット制度ごとの違いを理解
し、ビジネス構築を進めることが肝要と考えられる。ERM では、排出削減計画を含む社内の緩和戦略の策
定から、クレジット調達ポートフォリオの検討、プロジェクトの案件開発までご支援可能なリソースを有し
ている。また、世界40 以上の国・地域にオフィスを有しており、必要に応じて、JCM パートナー国オフィ
スと連携したグローバルな支援も可能である。パートナー国におけるクレジットの創出に関心のある方、カ
ーボンクレジットの調達やポートフォリオ設計にお悩みの際には、ERM にご相談いただければと思う。

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注1:J-クレジット制度は、日本国内における省エネ設備導入、再エネ活用、適切な森林管理等による温室効果ガスの削減をクレジットとして認証する制度である。詳細は以下を参照。https://japancredit.go.jp

注2:JCM(Joint Crediting Mechanism: 二国間クレジット制度)は、日本がパートナー国(途上国等)に資金・技術等を供給することで、パートナー国におけるGHG 排出削減に貢献し、創出したカーボンクレジットを日本とパートナー国で分配する制度であり、パリ協定6 条2 項に沿って実施される。詳細は以下を参照。https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/jcm/index.html

注3:国内外のCCU、沿岸ブルーカーボン、BECCS、DACCS プロジェクトに由来するクレジットのうち適格要件を満たすものについて、
排出量の5%を上限に使用可能とされる。詳細は以下を参照。
GX-ETSにおける 適格カーボン・クレジットの 活用に関するガイドライン

注4:国外の排出量取引制度の例をみると、EU ETS ではカーボンクレジットの利用は認められていないが、米国のRGGI では上限3.3%、CA 州制度では4%、WA 州制度では5%を上限に適格カーボンクレジットが利用可能。韓国ETS、中国全国ETS でも排出量の5%を上限に利用可能。(いずれも2024 年時点)

注5:2024 年6 月に実施されたSBSTA(気候変動枠組条約に基づき設置された科学的・技術的助言を提供する補助機関)会合において、現在のガイダンスの下では、パリ協定6 条の適格活動に「排出回避(Emission Avoidance)」は含まれないことが確認された。今後新たなガイダンスを策定し「排出回避」を適格活動に含めるかどうかは、2028 年のSBSTA 会合で再検討される見込み。
https://unfccc.int/event/sbsta-60?item=13%20a

注6:世界最大手のボランタリーカーボンクレジット認証機関のVerra は、2019 年に後発開発途上国(LDC)以外における再エネプロジェクトをプログラム範囲から除外。同様に、認証機関Gold Standard でも、2020 年に再エネプロジェクトの対象制限を発表。